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ブエノスアイレスで開催された9月7日のIOC(国際オリンピック委員会)総会で、2020年の東京オリンピック開催が決定された。

2020年のオリンピック開催については、東京、イスタンブール、マドリードが立候補していたが、東京は福島第一原発事故の処理、イスタンブールは反政府デモや隣国シリアの内戦などの政情不安、マドリードは経済危機と、それぞれ問題をかかえていた。結果的にいえば、IOCは、経済危機や政情不安よりも、福島第一原発の事故処理のほうがオリンピック開催における克服可能な課題と考えたのだろうといえる。そう考えてみれば、この3都市の中で、東京が選ばれる可能性はもともと少なくはなかったと思われる。これについては、いろいろ考えていることがあるが、それは別の機会にしたい。

さて、東京オリンピック開催決定のIOC総会でなされた東京招致委員会のプレゼンテーションの中で、安倍首相もスピーチをし、その中で短く福島第一原発のことについて触れた。そして、その後、IOC委員から福島第一原発について質問が出て、それにも安倍首相は答えた。福島第一原発についての安倍首相の発言の要旨について、朝日新聞が2013年9月8日にネット配信している。この発言については、NHKのテレビでリアルタイムに聞いていたが、大体この通りであった。

「ヘッドラインではなく事実みて」汚染水巡る首相発言

 東京電力福島第一原発の放射性物質汚染水漏れをめぐる安倍晋三首相の発言要旨は次の通り。

 【招致演説で】

 状況はコントロールされている。決して東京にダメージを与えるようなことを許したりはしない。

 【国際オリンピック委員会(IOC)委員の質問に対し】

 結論から言うと、まったく問題ない。(ニュースの)ヘッドラインではなく事実をみてほしい。汚染水による影響は福島第一原発の港湾内の0・3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている。

 福島の近海で、私たちはモニタリングを行っている。その結果、数値は最大でも世界保健機関(WHO)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。これが事実だ。そして、我が国の食品や水の安全基準は、世界で最も厳しい。食品や水からの被曝(ひばく)量は、日本のどの地域でも、この基準の100分の1だ。

 健康問題については、今までも現在も将来も、まったく問題ない。完全に問題のないものにするために、抜本解決に向けたプログラムを私が責任をもって決定し、すでに着手している。

 【演説後、記者団に】

 一部には誤解があったと思うが、誤解は解けた。世界で最も安全な都市だと理解をいただいたと思う。http://www.asahi.com/politics/update/0908/TKY201309070388.html

安倍首相の原発問題についての発言について、2013年9月10日付朝日新聞朝刊の社説「東京五輪―原発への重い国際公約」の中で、

 「状況はコントロールされている」「汚染水の影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」――国際オリンピック委員会(IOC)総会での安倍首相のプレゼンテーションと質疑応答は、歯切れがよかった。

 必ずしも原発事故の問題に精通しているわけではないIOC委員には好評で、得票にもつながった。http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2

と評されている。全く、スピーチにおけるレトリックの問題に限定するならば、そうなんだろうと私も思う。日本の国政の最高責任者が「安全だ」とお墨付きを与えること、つまり、福島第一原発事故問題は、日本政府によって克服している問題であるということ、これがIOC委員たちの求めていることであったに違いない。IOC委員たちの求めていた答えを、安倍首相は言い切ったのである。

それにしても、「(ニュースの)ヘッドラインではなく事実をみてほしい。」とは、人を食った発言である。安倍首相の発言内容は「事実」なのか。朝日新聞の同社説は、「だが、この間の混迷ぶりや放射能被害の厳しさを目の当たりにしてきた人には、空々しく聞こえたのではないか。」とも述べている。

そもそも、福島第一原発の状況を「コントロール」しているということ自体が事実に反するだろう。今日(2013年9月10日)も、汚染水貯蔵タンク周辺や1号機のタービン建屋周辺の井戸水が放射能で汚染されたことが報道されている。NHKの次のネット配信記事をみてほしい。

福島第一原発 地下水の汚染拡大か
9月10日 4時21分

福島第一原発 地下水の汚染拡大か
東京電力福島第一原子力発電所でタンクの汚染水が漏れた問題で、地下水への影響を調べるためタンクの周辺に新たに掘った2本目の井戸の水からも、ストロンチウムなどのベータ線という種類の放射線を出す放射性物質が高い値で検出されました。
東京電力は地下の汚染が拡大しているとみて調べています。

福島第一原発では先月、4号機の山側にあるタンクから、高濃度の汚染水300トン余りが漏れ、一部が側溝を通じて、原発の専用港の外の海に流出したおそれがあります。
東京電力が問題のタンクのおよそ20メートル北側に新たに掘った井戸で8日採取した水を調べたところ、ストロンチウムなどのベータ線という種類の放射線を出す放射性物質が1リットル当たり3200ベクレルという高い値で検出されました。
今月4日にはタンクの南側の井戸の水からも放射性物質が検出されていて、今回はその値よりさらに高く、東京電力は漏れ出した汚染水が地下水に到達し、汚染が拡大しているとみています。
100メートル余り海側には、建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げて海に放流するための井戸があり、影響が懸念されていて、東京電力はさらに観測用の井戸を増やして詳しく調べることにしています。
一方、高濃度の汚染水がたまっている1号機のタービン建屋のすぐ海側の井戸で今月5日に採取した水から放射性物質のトリチウムが1リットル当たり8万ベクレルという高い値で検出されました。
この井戸は原発事故の前から設置されていて、今回、監視を強化するためにほぼ1年ぶりに分析したところ、濃度は上昇していました。
東京電力は「継続的に見ていかないと原因や傾向はわからない」としています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130910/k10014415491000.html

より包括的に、安倍首相の発言内容が事実であるかいなかを厳しく検証しているのが、次の毎日新聞の9月9日付ネット配信記事である。

安倍首相:汚染水「完全にブロック」発言、東電と食い違い
毎日新聞 2013年09月09日 21時07分(最終更新 09月10日 01時09分)

 安倍晋三首相が、7日にアルゼンチン・ブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会の五輪招致プレゼンテーションで、福島第1原発の汚染水問題をめぐり、「完全にブロックされている」「コントロール下にある」と発言したことについて、「実態を正しく伝えていない」と疑問視する声が出ている。

 9日に開かれた東京電力の記者会見で、報道陣から首相発言を裏付けるデータを求める質問が相次いだ。担当者は「一日も早く(状況を)安定させたい」と応じた上で、政府に真意を照会したことを明らかにするなど、認識の違いを見せた。

 防波堤に囲まれた港湾内(0.3平方キロ)には、汚染水が海に流出するのを防ぐための海側遮水壁が建設され、湾内での拡大防止で「シルトフェンス」という水中カーテンが設置されている。また、護岸には水あめ状の薬剤「水ガラス」で壁のように土壌を固める改良工事を実施した。

 しかし、汚染水は壁の上を越えて港湾内に流出した。フェンス内の海水から、ベータ線を出すストロンチウムなどの放射性物質が1リットル当たり1100ベクレル、トリチウムが同4700ベクレル検出された。東電は「フェンス外の放射性物質濃度は内側に比べ最大5分の1までに抑えられている」と説明するが、フェンス内と港湾内、外海の海水は1日に50%ずつ入れ替わっている。トリチウムは水と似た性質を持つためフェンスを通過する。港湾口や沖合3キロの海水の放射性物質は検出限界値を下回るが、専門家は「大量の海水で薄まっているにすぎない」とみる。

 さらに、1日400トンの地下水が壊れた原子炉建屋に流れ込むことで汚染水は増え続けている。地上タンクからは約300トンの高濃度汚染水が漏れ、一部は、海に直接つながる排水溝を経由して港湾外に流出した可能性がある。不十分な対策によるトラブルは相次ぎ、今後もリスクは残る。「何をコントロールというかは難しいが、技術的に『完全にブロック』とは言えないのは確かだ」(経済産業省幹部)という。

 安倍首相は「食品や水からの被ばく量は、どの地域も基準(年間1ミリシーベルト)の100分の1」とも述べ、健康に問題がないと語った。厚生労働省によると、国内の流通食品などに含まれる放射性セシウムによる年間被ばく線量は最大0.009ミリシーベルト。だが、木村真三・独協医大准教授は「福島県二本松市でも、家庭菜園の野菜などを食べ、市民の3%がセシウムで内部被ばくしている。影響の有無は現状では判断できない」と指摘する。【鳥井真平、奥山智己】
http://mainichi.jp/select/news/20130910k0000m040073000c2.html

そもそも、安倍首相は、福島第一原発の港湾部で放射能汚染水がブロックされているといっていたが、港湾と外洋はフェンスによって仕切られているものの、完全に封鎖されているわけではなく、水は移動できる状態である。原子炉建屋への地下水流入はコントロールされておらず、汚染水は増える一方である。

そして、食品に対する放射性物質による汚染についても、流通食品についてはそれなりにコントロールしているが、家庭菜園などの野菜によって内部被ばくした可能性があることが指摘されている。さらに、9月10日付東京新聞朝刊では、「疑問符の付く安倍首相の発言はもう一つ。『日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい』と説明したが、厳密には違う。チェルノブイリ事故の影響を受けたベラルーシは、一部の食品の基準が日本よりも厳しい」と述べている。

このような安倍首相の発言内容に対し、現在、福島第一原発からの汚染水流出によって最も被害を蒙っている福島県の漁業者その他は「あきれた」と発言する他なかった。9月8日の福島民友新聞ネット配信記事をみてほしい。

汚染水めぐる首相発言に批判の声 福島の漁業者ら「あきれた」
(09/08 20:51)

 「状況はコントロールされている」。安倍晋三首相は、国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京電力福島第1原発事故の汚染水漏れについて、こう明言した。しかし、福島の漁業関係者や識者らからは「あきれた」「違和感がある」と批判や疑問の声が上がった。「汚染水の影響は福島第1原発の港湾内0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」とも安倍首相は説明した。だが、政府は1日300トンの汚染水が海に染み出していると試算。地上タンクからの漏えいでは、排水溝を通じて外洋(港湾外)に流れ出た可能性が高いとみられる。
http://www.minyu-net.com/newspack/2013090801001923.html

そして、とうとう、菅官房長官も、汚染水を含む港湾部の海水が外洋との間で出入りしていることを認めざるを得なかった。結果的に、安倍発言の一部を訂正したことになるといえる。9月10日に配信した朝日新聞のネット配信記事をみてほしい。

「全部の水、ストップではない」 汚染水問題で官房長官

 菅義偉官房長官は10日午前の記者会見で、東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れについて「全部の水をストップするということではない」と述べ、同原発の港湾の内外で汚染水を含む海水が出入りしていることを認めた。

 安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)総会で「汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされている」と発言した真意を問われて答えた。ただ、菅氏は「港湾内でも大幅に基準値以下だ。汚染水の影響については完全にブロックされていると申し上げた」と強調した。

 安倍首相は同日午前、首相官邸で記者団に「ブエノスアイレスでの約束はしっかり責任をもって実行したい」と述べた。http://www.asahi.com/politics/update/0910/TKY201309100112.html

そして、笑うしかないのは、次の朝日新聞のネット配信記事(9月10日)である。

福島第一原発の汚染水対策 関係閣僚会議が初会合

 東京電力福島第一原発の汚染水問題で、安倍政権は10日午前、廃炉・汚染水対策関係閣僚会議(議長・菅義偉官房長官)の初会合を開いた。五輪招致の演説で、安倍晋三首相は汚染水漏れは制御できているとの考えを示した。その裏付けとなる対策づくりを急ぐ。

 菅長官は会合の冒頭、「総理の発言どおり、状況を確実にコントロールして解決につなげていくことが必要」と述べ、対策を東電任せにせず、政府が前面に出る考えを強調した。

 閣僚会議の下に、茂木敏充経済産業相をチーム長とする「廃炉・汚染水対策チーム」をもうけることを決めた。技術的に難しい課題について国内外から解決策を募り、2カ月後をメドに対応をとりまとめる。
http://www.asahi.com/politics/update/0910/TKY201309100079.html

安倍発言は、「汚染水漏れは制御できている」としている。これは、現在「制御できている」という意味だ。しかし、廃炉・汚染水対策関係閣僚会議では「その裏付けとなる対策づくりを急ぐ」としている。対策はまだつくられてもおらず、実施は当然されていない。未来に属することだ。未来に成立する対策によって、現在の状況を「制御」するというのである。原因と結果が取り違えられているとしかいえない。

事が起こってからあわてて対策や準備をしたりすることを「泥棒を捕えて縄をなう」というが、現状では、汚染水という「泥棒」は捕まえてさえいないのだ。

今、それこそ、「ニュースのヘッドラインだけを見させて、事実を見せない」報道が蔓延している。しかし、その中で「事実」を探してみると、以上の通りなのである。東京オリンピック開催が決定されようとしまいと福島第一原発は存在している。そして、専門家ではなく、責任もないIOC委員たちがどう考えようと、福島第一原発は東京におけるオリンピック開催への「脅威」であり続けているのである。

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猪瀬直樹東京都知事が今月東京へのオリンピック招致活動でニューヨークを訪問し、その歳ニューヨークタイムズのインタビューを受けた。その内容が4月27日のニューヨークタイムズに掲載され、その中での五輪開催候補地イスタンブールなどへの猪瀬の批判があきらかになり、波紋を呼んでいる。

この記事は、ニューヨークタイムズから全文がネット配信されているが、英文である。部分的にはかなり紹介されているが、全体がどのようなものかは報道されていない。ツイッターにおいて全文翻訳を試みられている。その訳を参考にして、日本語として意味が通らないところなどを自分なりに訳してみた。

なお、私は、英語は苦手である。この翻訳も十分なものではない。ニューヨークタイムズの原文を掲げて、対訳の形で示すことにした。記事全体がどんなことを述べているのか、参考にしてほしい。

まず、次のような形で、この記事ははじまっている。

In Promoting His City for 2020 Games, Tokyo’s Bid Chairman Tweaks Others
By KEN BELSON
Published: April 26, 2013

2020年オリンピック誘致活動において他候補の鼻をひっぱる東京の会長
ケン・ベルソン
2013年4月26日発行

 With less than five months to go before the International Olympic Committee chooses a city to host the 2020 Summer Games, the three remaining bidders — Istanbul, Madrid and Tokyo — are increasing their efforts to win over delegates and the public.
 The Olympic committee’s rules prohibit bid committee members from directly criticizing other bids. Instead, the bidders often highlight the perceived strengths of their bids to note delicately what they believe to be their rivals’ shortcomings, something known in the communications industry as counter-positioning.

2020年夏季オリンピック開催都市選考まで5カ月を切った、現在残っている候補都市―イスラマバード・マドリッド・東京‐は委員や公衆の説得に一層力を注いでいる。
オリンピック委のルールはメンバーの他候補への直接的な批判を禁じている。代わりに、候補者はライバルの弱点と思われるところを注意深く示すために自ら認めている自分の強みを強調する、つまり広告業界で言うところのカウンターポジショニングである。

ここでは、まず、他候補都市への直接的な批判をさけ、自らの都市の強みを示すことにより他候補都市の弱点を暗示するにとどめなくてはならないとする五輪招致の原則を示している。

 

 Naoki Inose, the governor of the Tokyo Metropolitan Government and chairman of the Tokyo 2020 bid, has often done that, highlighting his city’s extensive and efficient transportation system, as well as the financial and technical wherewithal to build first-class sports sites and housing for the athletes. He has also noted that, like Paris and London, Tokyo has hosted the Summer Games before, a claim that Istanbul and Madrid cannot make.
 But Inose has also pushed the boundaries of rhetorical gamesmanship with occasionally blunt and candid statements about how his city compares with the competition, particularly Istanbul, which he has suggested is less developed and less equipped to host the Games.
 “For the athletes, where will be the best place to be?” Inose said through an interpreter in a recent interview in New York. “Well, compare the two countries where they have yet to build infrastructure, very sophisticated facilities. So, from time to time, like Brazil, I think it’s good to have a venue for the first time. But Islamic countries, the only thing they share in common is Allah and they are fighting with each other, and they have classes.”
 Asked later to elaborate on his characterization of Istanbul, a spokesman said Inose meant that simply being the first Islamic country to hold the Olympics was not a good enough reason to be chosen, just as being the first Buddhist country or the first Christian country would not be, either.
 The spokesman said Inose did not mean to refer to “class.”

猪瀬東京都知事・五輪招致委員会会長はそれをしばしばやっているが、彼の都市の広範で効率的な交通システム、それと同様に第一級のスポーツ施設や選手村建設のための財政・技術的手法を強調する。彼は、パリやロンドンの様に東京も嘗て夏季五輪開催経験があることを強調し、イスタンブールやマドリッドはできないと主張する。
しかし猪瀬は、反則すれすれの修辞的な技の境界を押し広げ、粗野かつ露骨に競争相手との比較を主張し、特にイスタンブールは低開発で主宰するのに準備不足だと示唆した。
「競技者にとって、最もいい場所はどこか?」。NYTとの通訳を通しての最近のインタビューで猪瀬は言った。「まだインフラ建設も洗練された施設も建設してない2国と比べてくれ。時々、ブラジルみたいな初開催地があるのはいいと思う。だが、イスラム諸国が唯一共有するのはアラーだけで、互いに戦っており、そこには諸階級がある」 
その後、彼のイスラムの描写について詳しく話すよう聞かれ、スポークスマンは、猪瀬は単にイスラム国初のオリンピックというのは選ぶ十分な理由ではない、ちょうど初の仏教国や初のキリスト教国であることがそうでないように、という意味だと言った。
スポークスマンは、猪瀬は「階級」について言及する意図はなかったと言った。

この部分で、猪瀬の招致活動における発言の不適切さが提示されている。猪瀬は、日本は、交通システム・スポーツ施設・選手村などのインフラ整備にすぐれており、また、パリやロンドンと同様にオリンピック開催の経験をもっていると主張する。もちろん、それだけでは不適切ではない。しかし、さらに猪瀬は、マドリッドやイスタンブールは開催できないと指摘している。そして、特にイスタンブールは低開発で準備不足であるとし、問題となった「イスラム諸国が唯一共有するのはアラーだけで、互いに戦っており、そこには諸階級がある」という主張を行っているのである。

これは、もちろん、ライバルへの直接的批判をさけるべきとするオリンピック招致活動上の規範に抵触することはもちろんである。しかし、それ以上に、東京をパリやロンドンなどの「先進国」の中におき、アジアのイスタンブールを蔑視し、さらには、イスラム圏総体を蔑視するという、レイシズム的な発言でもあることに注目せざるをえないのである。
ただ、あまりのレイシズム的発言のため、猪瀬のスポークスマンが修正をはかっていることがわかる。猪瀬自身はどう考えたかはわからないのだが。

 Istanbul is an Olympic finalist because it is an international city in one of the fastest-developing countries in the region. A member of NATO, Turkey straddles Europe and Asia and is a bridge between Christianity and Islam. With its emerging middle class, Turkey has become a political and economic powerhouse in the region.
 This is Istanbul’s fifth bid to host the Olympic Games. In a statement, the city’s bid committee declined to address comments made by rival bidders.
 “Istanbul 2020 completely respects the I.O.C. guidelines on bidding and therefore it is not appropriate to comment further on this matter,” the statement said.

イスタンブールは地域で最も急成長する途上国の一つの中の都市であり、そのためオリンピック開催国最終候補になった。NATO加盟国のトルコは欧州とアジアにまたがり、キリスト教とイスラムのかけ橋になっている。成長する中間層によりトルコは政治的経済的な地域のエネルギー源になっている。 
今回はイスタンブールの5回目のオリンピック開催立候補だ。声明で、ライバル候補都市のコメントについて招致委員会はコメントを拒否した。
「イスタンブール2020は招致に関するIOC指針を完全に尊重し、従ってこの件についてさらにコメントするのは適切でない」と声明は述べた。

ここでは、トルコのことにふれられている。まず、急成長し、ヨーロッパとアジアのかけはしになるトルコでオリンピックが開催されることの意義について、ニューヨークタイムズの記者自身が解説している。そして、イスタンブール招致委員会が、他都市を批判しないという原則を遵守して、この猪瀬発言に対するコメントを拒否したことが述べられている。

 

The International Olympic Committee does not look kindly on overtly harsh attacks by bidders, and occasionally it sends letters of reprimand to those who break with protocol, former bidders said.
 According to Article 14 of the Rules of Conduct for bidders: “Cities shall refrain from any act or comment likely to tarnish the image of a rival city or be prejudicial to it. Any comparison with other cities is strictly forbidden.”
 Though untoward comments rarely disqualify a bid, they could raise doubts in the minds of I.O.C. delegates about the trustworthiness of a bidder.
 “The reason the rule is there is that if someone deviates from it, it triggers a chain reaction,” said Mike Moran, chief spokesman for the United States Olympic Committee from 1978 to 2002 and a senior communications counselor for New York’s bid for the 2012 Summer Games. “The I.O.C. is very serious about their protocols.”
 Moran added that negative comments by bidders would probably not hurt a bid, although “you never know how a comment might influence those I.O.C. members.”

 
IOCは候補者によるあまりにひどい攻撃について大目に見ない、そして時に規則を破ったものに叱責の手紙を送ると、以前の候補者は言う。
候補都市への行為規則14条によると「都市はライバル都市のイメージを汚したり偏見を与えたりするようないかなる行為・発言をつつしむべきである。他都市とのいかなる比較も堅く禁じる。」
しかし、不適当なコメントが稀に候補を失格にすることがあり、それらは候補者の信頼に関するIOC委員の心証に疑念を起こさせた。
「ルールの理由は誰かがそれからそれると、反応の連鎖を引き起こすことにある」と、78-02年米五輪委主任スポークスマンで前回12年NY五輪招致広報顧問Mike Moranは言う。「IOCはこの規則に大変厳しい。」
Moranは候補者によるネガティブコメントは恐らく候補都市を害することはないだろうが、しかしながら「コメントがいかにIOCメンバーに影響するかは分からない」と加えた。

ここでは、まず、他候補との比較や批判を許さない招致上の規範が再び述べられ、過去のアメリカの招致関係者の取材に基づきながら、少なくとも、IOC自身は、そのような他都市への批判を許さないとした。そして、このようなネガティブコメントがどのような影響を及ぼすかということについてはわからないとした。

 

At several points in the interview, Inose said that Japanese culture was unique and by implication superior, a widely held view in Japan. He noted that the political scientist Samuel P. Huntington wrote in his book “The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order” that Japan was unlike any other culture.
 Inose also pointed to polls that showed 70 percent of Tokyoites in favor of hosting the Summer Games, up from 47 percent last year. The well-received London Games, he said, have helped generate enthusiasm and confidence that Tokyo can host a similarly successful event.
 Tokyo, he added, is exceptional because the Imperial Palace, which is largely off-limits to residents and visitors, forms the city’s core while bustling activity surrounds it. “The central part of Tokyo has nothingness,” he said. “This is a unique way that society achieved modernization.”

インタビューのいくつかの点で、猪瀬は、広く日本で抱かれている観点である優越感を含意しながら、日本文化は独特だと言った。彼は、政治学者ハンチントンは『文明の衝突』で日本は他の文化と違うと書いたと述べた。
猪瀬はまた世論調査で夏季五輪開催の東京都民支持が昨年47%から上昇し70%になったと示した。彼は、大変支持されていたロンドン五輪が、東京が同様の成功するイベントを開催できるように、一般の熱狂や信頼を手助けしていると言った。
東京は広く居住・訪問できない広大な場所、皇居があり、せわしない活動が周囲を取り巻く中心を形作っているから例外的だとも猪瀬は付け加えた。「東京の中心は空だ」と彼は言った。「これは近代化を達成した都市ではユニークだ」

この部分で、猪瀬は日本の優位性をかたっている。日本の文化の特異性、そしてその日本が近代化を達成したことをここでは述べている。彼によれば、東京の中心には「空」である皇居が所在しているが、その周囲でせわしない活動が行われていると説明している。「これは近代化を達成した都市ではユニークだ」としている。確かに、ロラン・バルドなど、このような形で日本の特異性を説明することはある。しかし、このようなことが、オリンピック開催にどのように寄与するのか、不明である。

 

Inose brushed aside the notion that Olympic delegates may favor Istanbul’s bid because Turkey has a far younger population than Japan and thus is fertile ground for developing the next generation of Olympic enthusiasts. While population growth has stalled in Japan, the population of Tokyo has grown because of an influx of younger people, he said. He added that although Japan’s population is aging, its elderly are reasonably healthy.
 “We used to say that if you are poor, you have lots of kids, but we have to build infrastructure to accommodate a growing population,” Inose said. “What’s important is that seniors need to be athletic. If you’re healthy, even if you get older, health care costs will go down. The average age is 85 for women and 80 for men, so that demonstrates how stress-free” Japan’s society is.
 “I’m sure people in Turkey want to live long,” he added. “And if they want to live long, they should create a culture like what we have in Japan. There might be a lot of young people, but if they die young, it doesn’t mean much.”

 
猪瀬は、トルコは日本よりはるかに若い人口を持ち五輪に熱狂する次世代を多く生みだす地となるからイスタンブールをオリンピック委員たちが候補として賛成するかもしれないという意見を払いのけた。日本では人口増加は停滞している一方、東京の人口は若い人々の流入で成長していると彼は言った。彼は日本の人口は高齢化しているが、高齢者は適度に健康だともつけ加えた。
「私達は貧乏人の子だくさんと言いならわしている、しかし、私達は成長する人口を収容するインフラを建設しなくてはならない」。猪瀬は言う。「大切なことは年長者達が運動的であることを必要としているということだ。もし健康なら、年をとっても、健康維持コストは下がる。女性で平均年齢85歳、男性で80歳、これはいかに日本社会がストレスフリーかを証明している。」
「私はトルコの人々が長生きしたいと思っていると確信している」と彼はつけ加えた。「そしてもし長生きしたいなら、私達が日本で持つような文化を創るべきだ。たくさん若い人々がいるだろうが、もし彼らが若死にしたら意味はあまりない」

この部分でまた猪瀬は、招致規範が禁止している他候補との比較を行っている。トルコのほうが若年人口が多く、次世代のオリンピック愛好者を増やす上に有利だという主張をはねのけている。猪瀬は、まず、日本全体では人口増加は停滞しているが、東京は若い人口の流入で成長しているといっている。そして、日本の人口の高齢化により、日本人はスポーツを必要とするようになっており、それによりストレスフリーの社会が作られ、平均寿命が伸びているとしている。しかし、いくら外国への宣伝でも、これは問題であろう。そもそも、東京への一極集中が日本社会の問題なのであり、東京オリンピック開催の正当性の中に取り入れられている東日本大震災からの復興でも、この問題は強く影響している。そしてまた、高齢者だからよりスポーツを必要とするというのも、どうみても強弁であろう。そのうえ、東京でストレスフリーの社会が形成され、平均寿命が伸びているというのも片腹痛い。「幻想」でしかないだろう。そもそも、都知事は、東京の地域社会がかかえている問題を把握し、その是正をはかるというのが職務であるはずである。いくら、対外宣伝でも、これでは、都知事としてどのように東京の地域社会の現実に向き合っているのかと思わざるをえないのである。

しかし、単に、日本や東京についての「幻想」を提示するだけならば、国際問題にはならないだろう。猪瀬は、この「幻想」をもとに、トルコ社会について、上からの視線で訓諭する。トルコの若年者が長生きしたければ、日本のような文化をつくれと。このような意見はまったくオリンピックの招致とも関係ないだろう。なぜ、こんなに傲慢なのだろうか。

Inose has drawn distinctions between Japan and other cultures in other settings, too. When he visited London in January to promote Tokyo’s bid, he said Tokyo and London were sophisticated and implied that Istanbul was not.
“I don’t mean to flatter, but London is in a developed country whose sense of hospitality is excellent,” Inose told reporters. “Tokyo’s is also excellent. But other cities, not so much.”

Hiroko Tabuchi contributed reporting.

猪瀬は、また、日本と他の環境における他の文化についても違いを描写した。ロンドンに東京開催を宣伝しにいった時、彼は東京とロンドンは洗練されており、イスタンブールは違うと暗に示した。
「お世辞を言うつもりはないが、ロンドンはもてなしのセンスが素晴らしい先進国だ」と猪瀬は言った「東京も素晴らしい。他はそれほどじゃない」。
ヒロコ・タブチ レポートに寄与

そして、この記事の最後は、猪瀬の考える日本ー東京の立ち位置が示されている。この文章の前の方でも、ロンドンやパリなどの先進国の都市こそオリンピック開催の資格があるものとし、東京もその一員であるとしていた。ここでは、まったく先進国都市ロンドンにおもねりながら、東京もまた同列であるとし、そのことでイスタンブールを排除しようとしているのである。

さて、猪瀬が30日にした謝罪会見によると、このインタビューではほとんど東京開催のことを話したのだが、最後の雑談で、イスラム圏で戦いが行われていることなどを話したという。発言は訂正するとしたが、このようなことを話したことは認めざるを得なかったといえよう。もちろん、ニュアンスや重点は実際に話したインタビューと違うのかもしれない。しかし、とりあえず、このような発言はあったと現時点ではいえるだろう。

そして、この記事をもとに、猪瀬発言の問題を考えてみよう。他都市の直接的批判や比較はしないという招致規範に抵触することはもちろんである。しかし、それ以上の問題があるだろう。まず、猪瀬は、日本ー東京をロンドンやパリなどと比肩する「先進国」とし、その立ち位置から上から目線で話しているといえる。猪瀬は、高齢化が進んでいる日本社会の現実に向き合わず、東京への一極集中という日本社会の重大な問題をむしろ利用しながら、高齢者がスポーツにいそしんでストレスフリーの社会がつくられているという「幻想」をふりまいている。そこには、まず、現状の日本社会の問題をどのように彼自身がとらえているのかという問いが惹起されよう。そして、さらに、先進国ー「欧米」へのすり寄りがあるといえる。

その上で、トルコーイスタンブールを後進国として猪瀬は蔑視する。それは、さらにイスラム教への偏見にも基づいているといえる。ここまでいけば、レイシズムといえるだろう。そして、「日本のような社会を形成しろ」と上から目線で訓示を行っているのである。

この記事を一読したとき、私は、福沢諭吉の「脱亜論」を想起せざるをえなかった。欧米ー先進国にすりより、アジアー後進国(なお、後進国としているのは猪瀬の認識であり、私の認識ではない)として蔑視する脱亜論的発想は、いまだに日本社会の基層に定着している。このような認識は猪瀬個人の資質だけの問題ではないのである。まさに、現代の脱亜論として、猪瀬の発言は位置づけられるのである。

翻訳参照
http://togetter.com/li/494941

原文
http://www.nytimes.com/2013/04/27/sports/in-praising-its-olympic-bid-tokyo-tweaks-the-others.html?pagewanted=all&_r=0

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